シュヴァイツァー14 信仰義認論への挑戦(14)

「原理的批評」

 十字架の死(贖罪)に対する疑念と愛の実践(「行い」)による「キリストとの合一」(復活理解)を説くシュヴァイツァーの神学思想は、イエスの本来の降臨の目的が「十字架の死」(贖罪)にあるのではなく、「神の国の実現」にあったということを確信する彼の福音書研究の結論に他ならない。イエスの公的活動はメシヤ性と無関係であるとか、なぜメシヤであることを秘密にしたのか、という指摘は、キリスト教の救いの中心である十字架の死の絶対予定説に対する否定である。言い換えると、イエスの本来の目的は死ぬためにきたのではないという神学である。

 このような神学思想がキリスト教界に出現し、霊的精神的環境圏を形成したことは、同じ発想を持つメシヤ思想である統一原理(『原理講論』)を、キリスト教界が受容可能なものとせんがための洗礼ヨハネ的使命を持った神学であると言えよう。

 キリストを信じるだけで救われるのではなく、愛の「行い」による「キリストとの合一」が救いであると強調する点は、ルター以来の信仰義認論に対する批判であり、本来的なイエス・キリストの教えへの帰還を目指すものである。

 「生命に対する畏敬」という世界観と人間観は地上天国の建設を目指す理念であり、個人の救いの次元を超えた理性的な大人を対象としたものである。それは人間だけでなく、万物の救いも包含した再臨のメシヤ思想の到来を予言する成熟社会の神学思想であるといえよう。

以上のような歴史的・学問的に誠実なシュヴァイツアーの神学思想は、イエスといえども人間学の対象とした科学的な歴史研究の結果によって形成されたものである。

また、諸宗教との対話は、宗教統一、思想統一を目指す再臨のメシヤ思想を先駆けるものであるといえよう。

 

注①    『二十世紀神学の形成者たち』(笠井恵二、新教出版社、23頁)②同40頁、③同19頁、④同51頁、⑤同42頁

注⑥『バルト初期神学の展開』(T・F・トーランス、新教出版社、108頁)

 

 

主要参考資料

『イエス伝研究史』(上)、著作集19、白水社

『イエス小伝』著作集8、白水社

『使徒パウロの神秘主義』著作集10、白水社

『わが生活と思想』著作集2、『わが生活と思想』選集2、白水社

『二十世紀神学の形成者たち』笠井恵二、新教出版社

『シュバイツァー』小牧治 泉谷周三郎、清水書院

『文化と倫理』著作集7、白水社

『キリスト教と世界宗教』シュヴァイツェル著、鈴木俊郎訳、岩波書店



カテゴリー: シュヴァイツァー「生命への畏敬」